不動産登記と委任状(委任状の内容)
2023.11.02
司法書士が不動産登記手続の代理をする際には、ご本人から登記申請手続の委任状(代理権限証書〔不動産登記令7条1項2号〕)に署名(記名押印)をいただく必要があります。
ですので、不動産の購入の場合における所有権移転登記、抵当権設定登記などを行う場合、依頼者から委任状をもらうことになります。
では、その内容について、どの程度の記載を内容として盛り込めば、登記申請の適する委任状として必要十分なのかを解説していきます。
1、委任状の内容(原則)
委任状に記載していただく事項は、特別に法定されているわけではありませんが、「相続登記に関する一切」というような、包括的な内容は許されておらず、具体的な委任事項(申請する内容とほぼ同一の内容)が記載されていなければなりません。
これは、登記の審査をする登記官が、登記官は委任状のみにより登記申請代理人が当該事件について真実の委任が与えられているか否かを審査するのであり、そのためには、委任状には具体的な委任事項が記載されていなければならないから、という手続上の要請によるものです(「増補 不動産登記先例解説総覧」p308参照/登記研究編集室 編 / テイハン 1999年05月)。
(この場合の具体例は、記事の末尾に記載します)
上記が原則ですが、例外的に簡易な記載方法が許される場合があります。
2、委任状の内容(登記原因証明情報を援用する方法)
昭和39年8月24日民事甲第2864号民事局長通達では、
登記原因証明情報を提供して申請する場合に、
例えば「令和○年○月○日付登記原因証明情報記載のとおりの所有権移転登記を申請する一切の件」
の申請を委任する旨の記載があれば足り、
申請すべき登記事項及び申請の目的である
不動産の表示がされていなくても差し支えないとしています。
つまり、この場合は、
一緒に添付する登記原因証明情報の記載に、
登記すべき事項や対象不動産が記載されているので、
その記載を援用することにより、
登記官は具体的に何が委任されているかがわかるから、
問題ないということだと思います
これについては、
実務では金融機関が
抵当権設定登記や抵当権抹消登記の委任状を、
この先例を前提として作成しており、よく見ますので、
根拠は知らなくても当然使えるものとして使用していることが多いですが、根拠は上記の先例です。
もっとも、この先例が使える場面は登記原因証明情報に「登記すべき事項」や「不動産の表示」が記載されている場合ですので、
①登記原因証明情報に「不動産の表示」の記載がない、所有権登記名義人住所変更登記(登記原因証明情報が「住民票」等)、相続を原因とする所有権移転登記(登記原因証明情報が「戸籍」等)
②登記原因証明情報を添付せずに登記申請をする「所有権保存登記(法74条1項)」
等の登記の場合は原則に戻ります。
このように、原則と例外を書いていきましたが、どちらかというと例外の場合の方が実務上は多い印象です。
正橋史人
(売買に関する登記の委任状の例(原則VER))
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委任状
東京都千代田区神田須田町二丁目9番地
司法書士法人鈴木総合事務所
私は、上記の者を代理人と定め、下記の事項を委任します。
1、下記、登記申請に関する一切の件
登記の目的 所有権移転
原因 令和5年2月1日売買
権利者 ○○市○○町二丁目12番地 法務花子
義務者 ○○郡○○町○○34番地 総務太郎
1 登記識別情報通知書及び登記完了証を受領に関する一切の件
1.原本還付請求及び受領に関する一切の件
1.登記に係る登録免許税の還付金を受領すること
令和5年2月1日
○○市○○町二丁目12番地
法務花子 印
不動産の表示
所 在 ○○市○○町一丁目
地 番 23番
地 目 宅地
地 積 90・45平方メートル
所 在 ○○市○○町一丁目23番地
家屋番号 23番
種 類 居宅
構 造 木造かわらぶき2階建
床 面 積 1階 43・00平方メートル
2階 40・34平方メートル
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(売買に関する登記の委任状の例(例外VER))
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委任状
東京都千代田区神田須田町二丁目9番地
司法書士法人鈴木総合事務所
私は、上記の者を代理人と定め、下記の事項を委任します。
1、令和5年2月1日付登記原因証明情報記載のとおりの所有権移転登記を申請する一切の件
1 登記識別情報通知書及び登記完了証を受領に関する一切の件
1.原本還付請求及び受領に関する一切の件
1.登記に係る登録免許税の還付金を受領すること
令和5年2月1日
○○市○○町二丁目12番地
法務花子 印
不動産の表示
令和5年2月1日付登記原因証明情報記載のとおり
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