登記識別情報とその効力の有効性を確認する手段の変遷
2023.11.13
不動産の売買の際に、売主様の必要書類として、
「登記識別情報」と「印鑑証明書」が必要となります。
「印鑑証明書」は、本人しか取得できない書類であり、
「登記識別情報」も、不動産を取得した際に本人に通知されるものであるため、
「本人しか持ち得ないもの」を2点用意してもらうことで、
登記上の売主の本人確認を制度的に設計しています。
ちなみに、かつては「登記識別情報」ではなく「登記済証」という、主に登記申請書の写しに法務局で印判を押したものが、この機能を果たしていました。
「登記済証」は、「紙」に印判を押したものであるので、この世にただ一つのみが現存するものでありました。
一方、平成17年施行の不動産登記法にて新たに発行されることとなった「登記識別情報」は、12桁のパスワードであり、この世に複数存在し得るものであり、かつ、不通知や失効制度もあるので、法務局で発行された「登記識別情報通知」の原本を本人が持っていたとして、(目隠しシールがはがされていない原本を持ってきた場合、有効な登記識別情報であることは、非常に高いですが)不動産取引時点でそれが有効か否かは不明です。
したがって、「登記識別情報」を用いて取引をする場合、司法書士としてはその有効性を事前(直前)に確認しておく必要があります。
そのための制度として、
①「登記識別情報に関する証明請求書(有効証明)」
②「登記識別情報に関する証明請求書(不通知・失効証明)」
の制度が存在します(不動産登記令第22条、不動産登記規則第68条)。
①は、登記識別情報を提供することにより、その有効性を確認できる制度
②は、登記識別情報が通知されているか否か、失効しているか否かを確認できる制度(「通知され、失効していない」ならば有効と判断できる)
となります。
但し、この制度は、当初、使用するのに「登記識別情報」の提供が必要でした。「登記識別情報」は、不動産売買の実務において、代金支払と引き換えに売主から交付されるものであり、事前に司法書士が入手するのは困難です。
ですので、「登記識別情報の有効性を確認したいので、事前に交付してほしい」と司法書士が要求しても、取引慣行として困難であり、登記済証の時と同じように、「登記識別情報通知(未開封)」を確認することで、有効な登記識別情報であると判断をして取引を進めていたことが多かったのではないかと思います。
その後の平成19年4月1日より、
②「登記識別情報に関する証明請求書(不通知・失効証明)」の制度の方は、登記識別情報の提供が不要になり、この時点から登記識別情報の有効性を事前に確認して、取引を進めることが可能となりました。
また、平成27年11月2日より、
③「登記識別情報通知・未失効照会サービス」
(参考) https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00238.html
が開始されました。確認内容としては、②と同じですが、②でかかる手続費用が無料であり、かつスムーズに照会結果が判明するため、より使いやすい制度となっています。
(公売や競売等により,同一の受付年月日及び受付番号の登記事項が甲区又は乙区に複数存在する場合は、③による照会はできず、②の制度を使うことになります。)
このように、登記識別情報制度が創設されてから、多少の混乱がありつつも、司法書士は事前に登記識別情報の有効性を確認したうえで、不動産取引に臨んでいます。
実務の場面では、「登記識別情報の有効証明をする」と言うときは、上記①「有効証明」ではなく③「未執行照会」を用いることが多いということになります。
正橋史人