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不動産登記において外国人(個人)の氏名の登記にローマ字を併記できるようになりました

2024.07.18

 不動産登記の個人の氏名に登記できる文字は、漢字、ひらがな、かたかなとされており、日本の国籍を有しない者(外国人)であっても、アルファベット等の外国文字での登記はできません(法人の場合は可能)。

 

 このことにより、外国人の名前は、外国文字をカナ文字に引き直して登記がなされています。しかし、このことは不動産の売却の際などに登記記録上の氏名と本人確認資料の氏名の表記が当然に異なり、本人確認が困難になる等の問題が生じていました。

 そこで、令和6年4月1日より、不動産登記規則第158条の31が新設され、日本の国籍を有しない者が所有権等の登記名義人となる申請をする場合は、氏名の表音をローマ字で表示したもの(ローマ字氏名)も登記するようになりました。

 

 具体的には、JOHN SMITHさんという日本国籍を有しない方がいた場合、「ジョン・スミス(JOHN SMITH)」というように登記されます。

 つまり、外国文字をカナ表記に引き直して登記しなければいけない点は変わりませんが、その横にローマ字氏名を併記できるようになりました。

(参考:法務省ホームページ)

法務省:令和6年4月1日以降にする所有権に関する登記の申請について (moj.go.jp)

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00589.html

 個人の氏名について、「アルファベット表記を可能にした」のではなく、「原則 漢字・カナ表記なのは変わらないが、アルファベット(ローマ字)表記を併記することを可とした」ことで、従前からあった本人性が不明になる問題点を解決したということになります。

 

 司法書士としては、外国人の氏名につき、従前と同じように「アルファベット→カナ文字」に引き直す作業が必要となります(カナ文字の箇所が名義人としての表記であることは変わらないため)。

 何の根拠もなしに司法書士が勝手にアルファベットをカナにすることはできないので、その根拠を確認して引き直すこととなります。

 具体的には、住民票や印鑑証明書にアルファベット表記と合わせて漢字、カナ文字での氏名が表記されていればそれを確認して引き直すこととなります。

 司法書士が、アルファベットからカナ文字に引き直す作業として具体的には次のような作業をしています。外国人住民票の表記を確認するところから始まるので、そこにどのような記載があるかを順序立てて整理していきます。

 

原則(すべての外国人住民票)

 原則として、外国人の住民票は氏名にローマ字(アルファベット)表記のみが記載されています。これは、漢字の国である中国人や韓国人であっても同様です。

例外1(母国の氏名が漢字の場合の例外)

「在留カード等に係る漢字氏名の表記等に関する告示」(平成23年12月26日法務省告示第582号)により、在留カード等の氏名表記については,新制度における市区町村との連携を考慮し,アルファベットの氏名表記を原則としつつ,漢字氏名を在留カード等に記載(原則としてアルファベットとの併記)できることされています。

 そして、その漢字は入管法上の「氏名」として扱われます。そして、それが住民票にも反映されます。

 つまり、母国の氏名が漢字の場合に、入管の手続の際に漢字氏名を記載していれば、住民票に漢字氏名がアルファベットに併記される形で記載されます。

 その漢字氏名は、漢字であるので氏名として、それを根拠に登記することが可能です。

 もっとも、母国の氏名が漢字である者が、上記手続をしていなかったために、漢字表記を記載するために、新た漢字氏名を入れるための手続するかというと、短期的な不動産取引のためのみにする手続としては現実的ではないと思われます。入管の手続であるため、手続に相当な日数がかかることが考えられるためです。

例外2(住民票の通称名の記載)

 外国人住民の場合、通称名を入れることができる場合があります。通称名(つうしょうめい)とは、「本名ではない世間一般で使用し、通用している名前」のことを指します。

 通称の記載を希望する場合や削除・変更する場合の申出方法や必要な資料については、各市区町村のホームページで詳細を確認できます。

 各自治体ごとの運用となるので、通称名を入れられるか否か、通称名を入れることができる要件などは各自治体により異なるようです。

 もっとも、「国内において名前が通用していることが客観的に明らかとなる書類」を複数枚用意して自治体に申請するなどの方法で通称名を登録することが多いようです。上記例外1の場合と比べて、個別の自治体のみで完結するので手続に日数はさほどかからないと思われます。

 カナ表記や漢字で記載された通称名はそれを根拠として登記することが可能です。

 なお、母国の漢字氏名と通称名の両方が記載されている場合、どちらでも登記可能なので、その選択は本人に確認が必要です。

 なお、通称名で登記した場合は、ローマ字併記が適用されないこととされています(令和6年4月9日 日司連常発第12号 別添1「ローマ字氏名・旧氏併記に関する質疑応答集」問1-5)。

 通称名とローマ字を併記すると全く違う読み方のものが併記されることとなるためと思われます。

例外3(印鑑証明書のカナ表記名の記載)

 住民票に通称名がない場合であっても、印鑑証明書にカナ表記がされている場合があり、その場合はそれを根拠として登記します。

 このカナ表記の記載についても上記例外2と同じように、各自治体の個別的な運用のようです。

例外4(公的書面に表記なしでの登記)

 上記のような、公的書面に漢字やカナ表記がある書類がどうしても取得できない場合であっても、住民票のアルファベット表記をカタカナに引き直して登記することは可能です。

 公的書面がない場合ですので、関係各位や本人に、より詳細な確認したうえで登記申請をする必要があります。

 例えば、「Kylian Mbappe」が「キリアン・エムバペ」か「キリアン・ムバッペ」なのか(中点の有無なども要確認)などの確認を、本人との事前に打ち合わせして確定しておく必要があります。

 決まりましたら、「キリアン・エムバペ(KYLIAN Mbappe)」などと委任状、登記原因証明情報の申請人欄に記載して申請することになります。

例外5(外国人ではあるがアルファベット表記がない場合)

 今回の改正により、新たに生じた事例ですが、実務において特別永住者の住民票に漢字の記載はあるものの、アルファベット表記がないものがありました。

 このような場合でも、外国人の所有者であるためアルファベットを併記する必要が生じることとなりました。

 したがって、例外4の場合と異なり「アルファベット表記」を本人との事前に打ち合わせして確定しておく必要があります。

 これにつきましても決まりましたら、「鄭大世(Chong Tese)」などと委任状、登記原因証明情報の申請人欄に記載して申請することになります。

 このように、不動産登記規則第158条の31が新設されたことにより、ローマ字が併記されることとなったので、外国人所有者の本人性の確認が困難になるような事例はだいぶ減ることになりそうです。

 なお、登記は「姓」「名」の順に登記されていることから、外国人であってもその順序で登記をするのが実務上の取扱いとされていました。

 しかし、今回の取扱いの際に例示された事例が「ジョン・スミス(JOHN SMITH)」とされていることから、今後は特別な事情がない限り住民票等の表記の順序で登記する取扱いとなったと解釈すべきでしょう。

 

正橋