コラム情報

  • HOME  >  
  • コラム情報  >  
  • 不動産登記  >  
  • 抵当権抹消登記②(完済後数年間抵当権抹消登記をしていなかった場合【代理権不消滅】)

抵当権抹消登記②(完済後数年間抵当権抹消登記をしていなかった場合【代理権不消滅】)

2021.04.21

銀行などの金融機関からの借入により土地や建物に抵当権が設定されている場合において、その全額を完済した場合、抵当権抹消のための書類として次の3つの書類が銀行から交付されます。


1、抵当権解除(弁済)証書等
2、登記委任状
3、登記識別情報(又は登記済証)


上記書類を用いて抵当権抹消登記を申請することにより、抵当権を抹消登記を申請することになりますが、申請しないまま数年間放置していた場合、その書類を紛失してしまうなどの事情があると、手続に変化が生じます。具体的に下記に示します。

Ⅰ(抵当権抹消登記を放置していた場合において)抵当権抹消書類がある場合
⇒その書類を用いて登記が可能
(代表者が変わっていても「代理権不消滅」(不動産登記法17条)の規定があるので可能)

なお、上記①の場合、登記申請書に次のような文言を入れることとされています。
「登記義務者の代表取締役甲山佳子の代理権は消滅している。本件申請時の義務者の代表取締役は今井乙男である。」(平成6年1月14日付け法務省民三第366号通知 参照)。
登記義務者として記載する代表取締役には、申請日現在の代表取締役を記載するのが通常の取扱いです。

Ⅱ(抵当権抹消登記を放置していた場合において)抵当権抹消書類を紛失している場合
⇒改めて抵当権抹消の書類を抵当権者(金融機関)に依頼した上で、「事前通知」等の手続を用いて抹消する。

抵当権を抹消するためには、金融機関より1抵当権解除(弁済)証書等、2登記委任状、3登記識別情報(又は登記済証)、が必要ですが、それを紛失している場合、1、2の書類について、金融機関に再発行を依頼します。ただし、3登記識別情報(又は登記済証)は登記所が1度しか発行しない書類ですので再発行はできません。その場合下記のいずれかの方法により、抵当権抹消登記を申請します。

①「事前通知」制度(不動産登記法23条1項)
②「資格者代理人による本人確認情報」制度(不動産登記法23条4項1号)

①「事前通知」制度は、登記申請の際に登記識別情報を提供しないで登記申請をした場合に、登記所がその登記が完了する前に、「こんな登記申請がされていますが、あなたは了承していますか?してるならすぐに返信ください」という通知を申請人に出し、申請人から登記所に通知が帰ってきたら登記が完了するという制度です。

②「資格者代理人による本人確認情報」制度は、司法書士が事前に申請人に面談し本人に間違いない旨を確認した場合に、「本人確認情報」という調書を作成し、それを登記識別情報の代わりに提供して申請する方法です。

①「事前通知」制度は、この手続をとるために別途特別なコストがかかるわけではありません。しかし、申請人が事前通知に対する返送をしないと、登記申請を却下されるリスクがあることから、「抵当権抹消+所有権移転」という不動産取引の場合にはこの制度を採用することができません。単に、「抵当権抹消」を行うのみの場合に用いる制度です。

②「資格者代理人による本人確認情報」は、司法書士が登記申請前に事前に本人確認手続をするので、別途報酬がかかりますが、この方法は不動産取引の一環としての抵当権抹消の際に採用することができます。

どちらを用いるかは、ケースケースバイケースで判断することとなります。

なお、不動産登記法23条4項2号による委任状に公証人の認証をもらう方法は、銀行が申請人となる場合である以上、現実的な手段ではないでしょう。

 

では、応用問題として次の事例を考えてみましょう。

Ⅲ 平成25年1月1日付のA銀行㈱の抵当権解除証書、委任状等一式が手元にあるが、その金融機関が平成25年7月1日に吸収合併により消滅している場合(存続会社B銀行㈱)

この場合、

・抵当権抹消の前提等して合併登記が必要でしょうか?

・平成25年1月1日付の書類を用いて抵当権抹消が可能でしょうか?

少しだけ考えてみてください。

 

この場合、吸収合併以前に抵当権が消滅しているため、抵当権抹消登記の前提として合併登記をする必要はありません。ただし、申請人となる当該金融機関が吸収合併により消滅しているため、その登記義務を承継している存続会社B銀行㈱が登記義務者としての地位で、申請人となります(一般承継人による登記)。
この場合、平成25年1月1日時点の代表者の代理権は当然退任していますが、登記の代理権は代理権不消滅(不動産登記法17条)の規定により消滅しないため、その当時に交付された委任状を用いて抵当権抹消登記を申請することができます。

したがって、

・抵当権抹消の前提等して合併登記が必要でしょうか?

⇒不要。むしろ、そのような登記をしては誤り。

・平成25年1月1日付の書類を用いて抵当権抹消が可能でしょうか?

⇒不動産登記法17条2号により代理権は消滅しないので可能。そして、一般承継人による登記申請をすることになる。

ということになります。

 

抵当権抹消登記は、登記手続の中では比較的簡単な手続ですが、複雑な場合も存在し、専門的な知識を要する場合がありますので、当事務所までお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。

 

司法書士法人鈴木総合事務所
司法書士 正橋 史人


【参考条文】
不動産登記法第17条
(代理権の不消滅)
登記の申請をする者の委任による代理人の権限は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。
一 本人の死亡
二 本人である法人の合併による消滅
三 本人である受託者の信託に関する任務の終了
四 法定代理人の死亡又はその代理権の消滅若しくは変更

民法第111条
(代理権の消滅事由)
代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。