コラム情報

売主が死亡した後の所有権移転登記(登記原因証明情報)

2024.03.08

不動産の売買契約を締結後に売主が死亡してしまう場合があります。

通常の不動産取引では「売買代金を買主が売主に支払った時に所有権が移転する」旨の所有権移転時期特約が入っているので、

売主が死亡すると所有権が相続人に移転することとなります。

 

したがって、その売買契約を、売主死亡後も継続する場合は、売買による移転登記の前提として、

相続人への相続による所有権登記が必要となります。

つまり、

①相続を原因とする所有権移転登記(相続人に権利が帰属)

②売買を原因とする所有権移転登記

という流れになります。

上記①②の登記は、連件で行うことも可能ですが、より安全に取引を行うためには、

①の登記を申請してその完成後に②の登記をするという手順が一般的です。

 

この場合において、②の登記を申請する際に提出する登記原因証明情報は、①②の流れを記載したものが必要となります。

 

具体的には次のような記載となります。

              登記原因証明情報

 

1.登記申請情報の要項

 (1)登記の目的   所有権移転

 (2)登記の原因   令和6年3月31日 売買

 (3)当 事 者

      権利者(甲)Z株式会社

      義務者(乙)B

 (4)不 動 産   後記のとおり

2.登記の原因となる事実又は法律行為

(1)売買契約

  Aは(甲)に対し、令和5年10月20日、本件不動産を売った。

(2)所有権移転時期の特約

  (1)の売買契約には、本件不動産の所有権は売買代金の支払いが完了した時

  に(甲)に移転する旨の所有権移転時期に関する特約が付されている。

(3)相続

  Aが令和5年12月15日死亡し相続が開始したが、法定相続人たるB・C本件不動産をBが取得する旨の遺産分割協議をなし、相続登記した。

(4)売主の地位の承継

  Aの法定相続人全員と買主(甲)は、(1)の売買契約の売主の地位をB(乙)が承継することに合意した。

(5)代金の支払

  (甲)は、(乙)に対し、令和6年3月31日、売買代金全額を支払い、 

 (乙)は、これを受領した。

(6)所有権の移転

 よって、本件不動産の所有権は、同日、(乙)から(甲)に移転した。

上記の書類において(4)の記載が必要なのは、Aが生前持っていた不動産の「所有権」とは別に、

契約により発生した「所有権を買主に引渡義務」があり、義務は遺産分割により当然には承継されず、

権利者である買主の合意が必要と法律上考えられるからです。

 

 なお、実務書で「売主が死亡した場合の売買による所有権の移転」の欄を調べると、

売買契約により所有権が移転しているが、登記が未了のために売主の登記義務を承継した一般承継人(相続人)が登記義務者として登記に関与するケースの事例が記載されていることが多いですが、

実務上「所有権移転時期特約」がついていない場合は少ないので、そのような登記を申請することは稀であり、

今回記載した事例の方が一般的には多いのではないかと考えられます。

                  正橋史人