コラム情報

住所が繋がらない場合の登記名義人住所変更登記

2021.05.12

Q.登記名義人が住所を数次移転(甲地⇒乙地⇒丙地と移転)した後に、登記名義人の住所変更の登記を申請する場合、住民票の除票及び戸籍の附票もないために、登記記録上の住所と現在の住所に繋がりをつけることができない場合は、どのような書類を添付すべきでしょうか?

 

A. 現在取得可能な「住民票」「戸籍の附票」その他(固定資産納税通知書、不在住証明書等の可能な限りの資料)に加えて、次の書類を添付する

①登記済証or登記識別情報

②(①がない場合)上申書+印鑑証明書

 

 したがって、「住所の繋がりがつかない可能性がある」という程度の段階において、登記必要書類の提示を求められた場合は、

・取得できる限りの「住民票(除票)」「戸籍の附票(除附票)」

・「印鑑証明書」(所有権移転登記の前件としての場合2通案内)の取得を依頼

と、

「登記済証(登記識別情報)」「固定資産納税通知書」

の用意を依頼しておけば、対応として必要十分でしょう。

 

【解説】


「住所が繋がらない」事態がが発生する理由


 上記のように甲地⇒乙地⇒丙地と住所が移転している場合、丙地の住民票を取得することで、前住所である乙地の住所の繋がりがつき、戸籍の附票を取得することで、すべての住所移転のつながりがつく可能性もあります。

 しかし、甲地を取得してから現在までの期間に大きな感覚があるような場合、その繋がりを証明する住民票の除票及び戸籍の附票が取得できない場合があります。これは、令和元年6月19日まで、旧住民基本台帳法施行令34条で「除票又は戸籍の附票の除票を、これらに係る住民票又は戸籍の附票を消除し、又は改製した日から5年間保存するものとする。」とされていたからです。令和元年6月20日からは、その保存期間は150年となったものの、それ以前に保存期間の経過により廃棄されていたものが復活するわけではないので、現在でも、「住所が繋がらない」という事態は頻発しているし、今後もついてまわる問題です。


参考となる質疑応答(登記済証、不在を証明する書面)


その場合にどのようにすればよいかは、「登記研究 858号 47頁  2019年8月30日 【実務の視点】(105) 質疑応答17」に下記の通り記載されています。

「登記名義人が住所を数次移転(甲地⇒乙地⇒丙地と移転)した後に、登記名義人の表示変更の登記を申請する場合、住民票の除票及び戸籍の附票もないときは、従前地における不在を証明する書面あるいは登記済証等を提供するなど、可能な限り登記官が変更の事実を推認し得る資料を添付すべきである(登記研究366号85頁)」

※ちなみに登記研究366号は1978年5月の号です。

このように、『従前地における不在を証明する書面あるいは登記済証等を提供するなど、可能な限り登記官が変更の事実を推認し得る資料を添付すべき』とあり、ここで例示列挙されているのは、「従前地における不在を証明する書面」「登記済証」ですが、あくまでもそれは例示列挙であり、「登記官が変更の事実を推認し得る資料」という、その「推認し得る」の程度が確定しているわけではないところが、司法書士としては悩み深い部分です。しかもこの住所変更登記は所有権移転登記の前件として申請することも多いことから、確実に受理してもらわなければならない登記です。したがって、できる限り多くの資料を提供する必要があります。

 もっとも、(上記に例示されているように)「登記済証」がある場合は、それを添付すればよい住所変更登記は受理してもらえると判断してよいでしょう(この場合、「原本還付」して添付する)。登記済証は、その発行機関は当該法務局であり、当該本人のみが持ちうる書類だからです。また、「登記識別情報」も同様です(もっとも、その提供方法として「登記識別情報通知書を原本還付する」のか「登記識別情報を移転登記と同様に提供する」のかは、登記官によって異なるようなので、事前に確認しておくとよいでしょう。)。

 ただ、上記に例示されている「従前地における不在を証明する書面」として、登記記録上の「不在住証明書」1通のみでは、消極証明に過ぎず、「登記官が変更の事実を推認し得る資料」としては、弱いと考えられます。

 ※「登記官が変更の事実を推認し得る資料」の例として、「勤務先の証明」「納税申告書の写し」(登記研究342号66頁)、「固定資産納税通知書」などが挙げられますが、必ずしもすべての人が入手できる書類でもなく、推認資料として弱いのは同様です。


上申書


 登記雑誌などに特別な言及はないものの、実務上は、登記済証がないような場合は、「不在住証明書」等に加えて、「登記記録上の登記名義人は、私に間違いない」旨の上申書に実印を押印し、印鑑証明書を添付したものを添付することで対応していただけることがほとんどです。よって、不在住証明書くらいしか取得できないような場合、上申書で対応するとよいでしょう(当職の実感としては、「上申書+印鑑証明書」は、「登記済証」とほぼ同等です。)。

 

 なお、移転を伴わない住所変更だけの依頼のような場合、登記済証や登記識別情報を依頼人に求めるのは気が引けるかもしれませんが、住所が繋がらないような場合、「登記済証or登記識別情報」か「上申書+印鑑証明書」のどちらかが求められる可能性がかなり高いです。「登記済証or登記識別情報」が存在しているのが判明している場合は、依頼人に丁寧に説明して、預かってしまうのが結果として、スムースに登記が完了します。

 『「上申書+印鑑証明書」を添付する』という方法は、先例や公式な質疑応答などには記載されていませんが、実務上はよく使う手段です。

 上申書に添付する印鑑証明書と所有権移転登記の際に提出する印鑑証明書は、併用不可とされる場合があるため、当初より2通案内しておくのが良いでしょう(こちらも法務局ごとの不統一事例ですが、安全な方法をとりましょう。)。 

※ここまでの推認資料として弱い、強いなどの評価は当職の経験に基づくものとなります。

 「上申書」に記載すべき文言につきましては、当事務所で事例に応じて適切な文言を作成して署名、押印をいただきます。住民票等を取得しても住所の繋がりがないような場合、当事務所にご相談ください。

 

司法書士法人鈴木総合事務所
司法書士 正橋 史人